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代理店契約の交渉を有利に進めるために最も重要なのは、
「自分に有利な条項をできるだけ多く入れること」
ではありません。
メーカーと代理店の双方の立場と利害関係を理解したうえで、複数の契約条件を組み合わせて交渉することです。
代理店契約では一般的に、販売店契約のように代理店が製品を仕入れて、自ら顧客へ再販売するわけではありません。
代理店はメーカーの製品について顧客を開拓し、メーカーと顧客との取引成立に向けた営業活動を行い、その成果に応じて手数料を受け取ります。
そして、ここは非常に重要なポイントですが、
「実際に顧客と売買契約を締結するのはメーカーです。」
代理店自身が製品を仕入れて顧客へ販売する「販売店」と、この点を混同してはいけません。
実務ではこの販売店と代理店の違いが十分に整理されないまま契約交渉が始まっているケースもあります。
そのため代理店契約では、
「代理店は具体的にどこまで営業活動を行うのか?」
「代理店はメーカーに無断で価格や取引条件を約束できるのか?」
「どの売上について手数料が発生するのか?」
「代理店が紹介した顧客とメーカーが直接取引した場合はどうするのか?」
など、販売店契約とは異なる交渉ポイントが出てきます。
そして代理店契約交渉では、
「この条項は当社に不利なので削除してください!」
「いや、それは受け入れられません!」
というYES/NOだけの交渉をしていてはいけません。
相手がその条件を要求する理由を理解し、自社が絶対に譲れない条件と交換可能な条件を整理したうえで、別の契約条件を交換材料として提示することが重要です。
以下、メーカーと代理店それぞれの立場から、代理店契約交渉で特に重要になるポイントを見ていきましょう。
代理店契約交渉で最初に明確にしなければならないのが、
「代理店はいったい何をするのか?」
です。
例えば次のような業務が考えられます。
① 見込顧客を探す
② 見込顧客へ製品を紹介する
③ メーカーと見込顧客との商談を設定する
④ 商談に参加する
⑤ メーカーが承認した価格・取引条件を顧客へ提示する
⑥ 顧客の要望や希望条件をメーカーへ伝える
⑦ 顧客からの注文や契約申込みをメーカーへ取り次ぐ
⑧ メーカーと顧客との契約成立に向けた連絡・調整を行う
⑨ 契約締結後の顧客をフォローする
ここで非常に重要なのは、
「代理店が顧客との売買契約を締結するわけではない」
という点です。
製品の売主はメーカーであり、顧客との売買契約を締結するのもメーカーです。
代理店は、そのメーカーと顧客との間に入り、取引成立に向けた営業活動や連絡・調整などを行います。
したがって、
「代理店契約を締結したのだから、代理店がメーカーの商品を顧客へ販売する」
と考えてしまうと、販売店契約との区別が曖昧になってしまいます。
代理店契約を作成・交渉するときには、まずこの基本構造を明確にしたうえで、代理店に具体的にどこまでの業務を行わせるのかを決める必要があります。
代理店が顧客との売買契約を締結しないとしても、代理店が営業活動の中で何をどこまで行えるのかは重要な問題です。
例えば代理店が顧客に対して、
「100万円まで値引きできます」
「来月末までに納品できます」
「この故障についてはメーカーが無償で保証します」
などと、メーカーの承認を得ずに約束してしまったらどうなるでしょうか?
メーカーとしては非常に困ります。
そこでメーカー側としては、
「価格、納期、保証その他の重要な取引条件について、代理店がメーカーの事前承認なく顧客へ確約してはならない」
という条件を要求することが考えられます。
一方で代理店側からすると、顧客との商談中に何を聞かれても、
「メーカーへ確認しないと分かりません」
では営業活動がやりにくくなる場合があります。
そこで、
・どこまで製品説明を行えるのか?
・どの価格まで提示できるのか?
・値引条件を提示できるのか?
・納期についてどこまで回答できるのか?
・見積書は誰が作成するのか?
・顧客からの注文をどのようにメーカーへ取り次ぐのか?
などを具体的に検討します。
つまり、
「代理店だから営業は全部任せる」
のではなく、代理店が行える行為と、メーカー自身が判断・決定しなければならない事項を明確に区別しておくことが重要です。
次に重要なのが販売地域です。
例えば、
・日本全国
・関東地方
・東京都
・特定の都道府県
など、代理店が営業活動を行う地域を決める方法があります。
しかし代理店契約では、単に地図上の地域を決めれば終わりではありません。
例えば、
「販売地域内に本店がある顧客だけが対象なのか?」
「販売地域外に本店がある会社の販売地域内支店との取引は?」
「メーカーのホームページから販売地域内の顧客が直接問い合わせてきたら?」
といった問題が発生します。
したがって販売地域については、
「地理的範囲だけでなく、どの顧客・どの取引を代理店の手数料対象にするのかまで考えて交渉する必要があります。」
代理店契約でも大きな交渉ポイントになるのが、
「独占にするか、非独占にするか?」
です。
代理店側からすれば、
「自分がお金と時間を使って市場を開拓するのだから、その販売地域では他の代理店を使わないでほしい!」
と考えるでしょう。
一方メーカー側からすれば、
「本当にこの代理店が十分な営業活動をしてくれるか分からない段階で、その市場全部を独占させるのは怖い!」
ということになります。
ここで重要なのは、
「独占権を与える/与えないというYES/NOだけで交渉しないことです。」
例えば代理店が独占権を要求するのであれば、メーカーは交換条件として、
① 最低売上目標
② 最低手数料対象売上
③ 最低顧客獲得件数
④ 定期的な営業活動報告
⑤ 競合商品の取扱制限
⑥ 目標未達の場合の非独占への変更
などを要求することが考えられます。
また、
「最初の1年間は非独占とし、一定の実績を達成したら独占へ変更する」
という方法もあります。
つまり独占権は単独で交渉するのではなく、実績条件・契約期間・更新条件・解除条件などとセットで交渉するのがポイントです。(参考:独占販売権)
代理店にとって最も気になる条件の一つが手数料です。
例えば、
「売上金額×10%」
と定める場合でも、それだけでは不十分です。
なぜなら、
「売上金額とは何を意味するのか?」
を決めなければならないからです。
例えば顧客への販売価格が110万円で、
・製品代金 100万円
・消費税 10万円
だった場合、
110万円×10%なのか?
100万円×10%なのか?
を決める必要があります。
さらに、
・値引き
・返品
・キャンセル
・運送料
・保険料
・その他諸費用
などを手数料計算の基礎に含めるのかについても検討が必要です。(参考:手数料の計算方法)
したがって手数料交渉では、
「何%か?」だけではなく、「何にその%を掛けるのか?」まで決める
ことが非常に重要です。
手数料率と同じくらい重要なのが、
「手数料がいつ発生するのか?」
です。
例えば次のような時点が考えられます。
① 代理店が顧客を紹介した時
② メーカーと顧客が売買契約を締結した時
③ メーカーが製品を出荷した時
④ メーカーが顧客へ代金を請求した時
⑤ メーカーが顧客から代金全額を受領した時
メーカーとしては、
「顧客からまだ代金を受け取っていないのに、代理店への手数料だけ先に支払うのは困る」
と考えるでしょう。
一方代理店としては、
「自分の営業活動によってメーカーと顧客との契約が成立したのに、顧客の支払遅延まで自分がリスクを負うのはおかしい」
と考えるかもしれません。
そこで、
「手数料が発生する条件と、実際に手数料を支払う時期を分けて設計する」
という方法もあります。
この部分を曖昧にすると、実際に取引が成立した後に非常にもめやすいので注意してください。
これは代理店契約で非常に重要なポイントです。
代理店が苦労して顧客を開拓しメーカーへ紹介した後、メーカーとその顧客が代理店を介さず直接やり取りして売買契約を締結したらどうなるでしょうか?
代理店からすれば、
「自分が見つけてきた顧客なのだから手数料を支払ってほしい!」
となります。
一方メーカーからすれば、
「一度紹介しただけで、その顧客との将来の取引すべてについて永久に手数料を支払うのか?」
という問題があります。
そこで例えば、
・代理店が紹介した顧客をどのように特定するのか?
・メーカーの既存顧客は除外するのか?
・紹介後何年間を手数料対象にするのか?
・最初の売買契約だけか、継続取引も対象にするのか?
・別の製品の販売も対象にするのか?
・代理店契約終了後の取引も対象にするのか?
などを交渉します。
単に、
「代理店が紹介した顧客について手数料を支払う」
だけでは足りません。
「誰を『代理店が紹介した顧客』とするのか、そしてどこまでの取引を手数料対象にするのかを明確にすること」
が重要です。
独占代理店契約の場合にはさらに注意が必要です。
例えば代理店に東京都での独占代理権を与えた後、メーカーのホームページを見た東京都の顧客からメーカーへ直接問い合わせが来たらどうするでしょうか?
代理店は、
「東京都は自分の独占販売地域だから手数料を支払ってほしい」
と主張するかもしれません。
メーカーは、
「代理店が何もしていない取引なのだから手数料を支払う必要はない」
と考えるかもしれません。
したがって独占代理店契約では、
「メーカー自身が獲得した顧客との直接取引を認めるのか、そしてその場合にも代理店へ手数料を支払うのか」
まで決めておく必要があります。
ここも独占権と手数料を別々に考えてはいけない典型例です。
メーカーとしては、自社製品について営業活動を行っている代理店が、同時に競合他社の商品についても営業活動を行っていると、
「本当に当社製品を積極的に売り込んでくれるの?」
という問題が生じます。
そこでメーカー側は競合商品の取扱禁止を要求することがあります。
しかし代理店側からすると、
「競合商品を一切扱えないのであれば、その分だけ事業上の制約が大きくなる」
ということになります。
したがって競合商品の取扱制限については、
・どの商品を競合商品とするのか?
・どの地域で禁止するのか?
・契約期間中だけか?
・契約終了後も制限するのか?
・独占代理店の場合だけ制限するのか?
などを具体的に検討します。
ここでも、
「競合商品取扱禁止!」
だけで終わらせず、独占権などメーカーが代理店へ与えるメリットとの交換条件として交渉することがポイントです。
メーカーは代理店に営業活動を任せる以上、
「今月はどのような営業活動をしたのか?」
「どんな顧客と商談しているのか?」
「競合他社はどのような動きをしているのか?」
といった情報を把握したくなります。
そこで代理店から定期的に、
① 営業活動の状況
② 商談中の顧客
③ 顧客からの問い合わせ・クレーム
④ 競合他社・競合商品情報
⑤ 市場情報
⑥ 翌月以降の営業予定
などを報告してもらう方法があります。
一方、代理店にとって報告書の作成は当然ながら負担になります。
その場合は、
「毎月ではなく四半期ごとにする」
「詳細な報告書ではなくオンラインミーティングで報告する」
なども交渉材料になります。
代理店契約でも契約期間と更新条件は重要です。
何となく、
「契約期間1年間+その後自動更新」
としてしまうケースがありますが、本当にそれでよいかを考える必要があります。
例えばメーカーとしては、新しい代理店の能力がまだ分からないので、
「まず1年間契約して実績を見たい」
と考えるかもしれません。
代理店としては、市場開拓に相当な先行投資が必要であれば、
「1年で簡単に終了されるのでは投資を回収できない」
と考えるでしょう。
そこで、
・初回契約期間
・自動更新の有無
・更新の条件
・最低実績
・独占権維持条件
・更新拒絶通知期限
などをセットで検討します。
特に独占代理店契約の場合には、
「契約期間+独占権+最低実績+更新条件」
を一体として交渉することが重要です。
契約期間を決めたら、途中で契約を終了できる条件についても検討します。
例えば、
・重大な契約違反
・手数料の不正請求
・秘密保持義務違反
・競合商品の取扱制限への違反
・メーカーの信用を害する営業活動
・最低実績の未達
・倒産その他信用不安
などが考えられます。
ここでも、
「どのような違反でも即時解除できる」
とするのか、
それとも、
「一定期間を与えて違反を是正し、それでも改善されなければ解除する」
とするのかによって大きく違います。
また最低実績未達の場合についても、
「直ちに契約解除」
だけではなく、
「独占から非独占へ変更する」
という中間的な選択肢もあります。
契約交渉では「解除する/しない」の二択だけで考えないことが重要です。(参考:契約の解除・解約)
代理店活動を行うためには、メーカーから代理店へ、
・価格情報
・製品情報
・技術情報
・営業資料
・顧客情報
・事業計画
など様々な情報が提供されることがあります。
逆に代理店からメーカーへ見込顧客情報や市場情報が提供されることもあります。
したがって、
・何を秘密情報とするのか?
・誰に開示できるのか?
・どの目的で使用できるのか?
・契約終了後も秘密保持義務を負うのか?
・契約終了時に資料やデータを返却・廃棄するのか?
などを決めます。
特に顧客情報については手数料とも関係するため、
「誰がその顧客を開拓したのか」
を後から確認できる仕組みを作っておくことも重要です。
代理店契約では、契約終了後についても非常にもめやすい問題があります。
例えば代理店が契約期間中に半年間かけて顧客と商談を続け、あと一歩で契約成立というところで代理店契約が終了したとします。
そして代理店契約終了の1週間後に、メーカーとその顧客との売買契約が成立したらどうなるでしょうか?
メーカーは、
「代理店契約はもう終了している」
と考えるかもしれません。
代理店は、
「その顧客との契約が成立したのは、自分の営業活動の成果だ!」
と考えるでしょう。
そこで、
・契約終了前に紹介済みの顧客はどうするか?
・契約終了前に商談中だった案件はどうするか?
・終了後何カ月までを手数料対象にするか?
・どの段階まで進んでいた案件を対象にするか?
などをあらかじめ決めておきます。
「代理店契約では『契約期間中の手数料』だけでなく、『契約終了後にメーカーと顧客との間で成立した取引の手数料』まで交渉しておくことが重要です。」
契約が終了したら手数料だけでなく、その他の後処理についても決めておく必要があります。
例えば、
① メーカーから提供された資料・データを返却または廃棄する
② メーカーの商標・ロゴの使用を停止する
③ メーカーの代理店であるとの表示を削除する
④ メーカーから貸与された物品を返却する
⑤ メーカーの秘密情報を引き続き秘密として保持する
などです。
代理店には販売店のような「在庫処理」が通常はありません。
その代わり、
「商標・営業資料・顧客情報・商談中案件・未払手数料」
など、代理店契約特有の終了時処理があります。(参考:契約終了後の措置)
契約トラブルは契約締結時よりも、むしろ契約を終了するときに表面化することが多いので、契約を締結する段階で終了後まで考えておくことが重要です。
ここまで見てきたように、代理店契約の各条件は独立しているわけではありません。
例えば代理店から、
「この販売地域について独占代理権が欲しい」
と言われたとします。
メーカーが、
「嫌です」
と言えばそこで交渉は止まります。
しかし、
「独占代理権を認める代わりに、年間売上●●円を最低目標にしましょう」
「目標未達の場合には翌年度から非独占にしましょう」
「独占権を認める代わりに競合商品は扱わないでください」
と提案すれば、交渉を前へ進めることができます。
逆に代理店側も、
「競合商品を扱わない代わりに独占代理権を認めてください」
「最低売上目標を受け入れる代わりに契約期間を3年間にしてください」
などと交渉できます。
つまり代理店契約交渉では、
「独占権、販売地域、手数料、最低実績、競合商品の取扱制限、契約期間、更新、解除」
などをバラバラに交渉するのではなく、
「複数の契約条件を交換材料として組み合わせること」
が非常に重要なのです。
そしてもう一つ重要なのは、
「相手がなぜその条件を要求しているのか?」
を考えることです。
相手の要求をそのまま受け入れる必要はありません。
しかし相手がその条件を要求している「理由」が分かれば、そのリスクや不安を別の条件で解消する代替案を提示できることがあります。
それができるようになると、
「こちらに不利だから削除!」
「それは受け入れられない!」
だけの契約交渉から一歩抜け出すことができます。
「契約交渉とは、条項ごとの勝ち負けを競うものではありません。」
メーカーと代理店双方が抱えるリスクと希望条件を把握し、複数の契約条件を組み合わせながら、
「それなら合意できる!」
という着地点を作り、それを最後に正確な契約書へ落とし込む。
これが代理店契約交渉を進めるうえで最も重要なポイントです。
代理店契約書の具体的な条項については、『代理店契約書(和文)雛型と解説』もご参照ください。
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